神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

イオールコス:目次

1:クレーテウス

今度は、イアーソーンとアルゴー号の物語に登場するテッサリア地方の町イオールコスについて調べていきます。ギリシアの伝説によれば、イオールコスの町を創ったのはクレーテウスという人物です。ところで古代のギリシア人たちは自分たちの土地をギリシアとは呼ばず、「ヘラス」と呼んでいました。そして自分たちのことを「ヘレネス」と呼んでいました。これらの名前の元になったのがヘレーンという神話上の人物です。ヘレーンの息子の一人にアイオロスという人物がおり、彼はアイオリス人(ギリシア人の一派)の祖先だということになっています。イオールコスの町を創建したというクレーテウスは、そのアイオロスの息子の・・・・


2:ペリアース

前回引用した「オデュッセイアー」では、ペリアースは神ポセイドーンの息子として、生まれながらに祝福された存在のように描かれていました。一方、娘のほうは身ごもったすえ、ペリアースとネーレウスとの二人を生んで二人とも、ゼウス大神さまのたくましい随身とまで生い立ったのです 「オデュッセイアー 第11書」 呉茂一訳 より しかし、今に伝わるイアーソーンとアルゴー号乗組員たちの冒険の物語ではペリアースは悪役になっています。これはすでにヘーシオドスの頃から悪役だったようで、ヘーシオドスはペリアースのことを「尊大な王 傲慢 無謀 暴威を縦(ほしいまま)にする男ペリアス」・・・・


3:イアーソーン(1)

アイソーン王の一人息子イアーソーンは、難を逃れてイオールコスを離れ、ケンタウロス族の賢者ケイローンの許で育ったのでした。ケンタウロス族というのは馬の身体を持つ人々のことです。やがて年月が経ってイアーソーンが成人した時、彼は王位の返還を迫りにイオールコスに向いました。その途中、大雨が降ってきて、前途には水かさを増した川がありました。その岸辺に近付くと、ひとりの老婆が渡るに渡れず困っている様子です。そこでイアーソーンは彼女を助けるために背中に背負って川を渡り始めました。ところが流れの中ほどに来たところ、急にこの老婆の体重がおそろしいほど重くなったのです。・・・・


4:イアーソーン(2)

その後イアーソーンとアルゴー号に乗った英雄たち(彼らのことを「アルゴナウタイ」(アルゴー号乗組員たち)と呼びます)は、女だけの島に寄ったり(レームノス島)、有翼の怪物ハルピュイアイと戦ったり、両側から迫ってくる岩と岩(シュムプレーガデスの岩)の間を辛くも通過したり、といろいろな出来事に遭遇したのちに黒海の東岸のコルキスに到着しました。コルキスで竜が守っている「金羊毛皮」を取ってくるのにも苦労があったのですが、有名な話ですし、イオールコスとはあまり関係がないので省略します。イオールコスとの関係で重要なのは、イアーソーンが「金羊毛皮」を持参して無事に・・・・


5:アカストス

アカストスはペリアースの息子でした。彼は父の制止を振り切ってイアーソーンの冒険に参加しました。しかし、イアーソーンが自分の父親ペリアースを謀殺したために、イアーソーンとの友情は終わりました。王位に就いたアカストスはイアーソーンとメーデイアをイオールコスから追放したのでした。その後、まだ父親の葬礼競技を挙行する前に、ペーレウスという人物(彼はのちに英雄アキレウスの父親になる人物です)がアカストスの許に庇護を求めてきました。聞けば、ペーレウスは自分の恩人をあやまって殺したためにプティエーから逃げてきたとのことでした。恩人というのはプティエーの領主・・・・


6:その後のイオールコス

おそらくペーレウスによる侵攻によってイオールコスは大きなダメージを受けたのでしょう。その後のイオールコスについてはほとんど話が伝わっていません。では、ギリシア英雄伝説のほぼ最後の時代に当るトロイア戦争の当時、イオールコスはどんな様子だったのでしょうか? それを探るためにホメーロスを当ってみました。するとホメーロスの「イーリアス」に次のような記述を見つけました。さてボイベーイスの沼のかたえの、ペライの町を領する者ら、ボイベーやグラピュライ、またはよく築かれたイオールコスなどを――その人々が十二艘の船々に大将たるは、アドメートスが若子(わくご)と・・・・