神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

イオールコス(5):アカストス

アカストスはペリアースの息子でした。彼は父の制止を振り切ってイアーソーンの冒険に参加しました。しかし、イアーソーンが自分の父親ペリアースを謀殺したために、イアーソーンとの友情は終わりました。王位に就いたアカストスはイアーソーンとメーデイアをイオールコスから追放したのでした。


その後、まだ父親の葬礼競技を挙行する前に、ペーレウスという人物(彼はのちに英雄アキレウスの父親になる人物です)がアカストスの許に庇護を求めてきました。聞けば、ペーレウスは自分の恩人をあやまって殺したためにプティエーから逃げてきたとのことでした。恩人というのはプティエーの領主エウリュティオーンのことで、ペーレウスはそれ以前に犯した殺人の穢れをエウリュティオーンに清めてもらっていたのでした。穢れを清めてもらえないと、共同体に認めてもらえず、一人で暮らしていかなければならないので、穢れを清めてもらうことは非常に重要なことでした。しかも彼はエウリュティオーンの娘アンティゴネーと結婚し、プティエーの領土も分けてもらっていたのでした。


さて、カリュドーンという大きな町がありました。その頃、そこを獰猛な猪が荒らしていて、家畜や農作物、はては人間にも被害を及ぼしていました。カリュドーン王オイネウスはギリシア中から猪退治のための勇士を募集しました。プティエーの領主エウリュティオーンはこの募集の話を聞いて、ペーレウスを誘って一緒にカリュドーンにやってきました。猪自体は勇士たちによって結局退治されたのですが、その時、ペーレウスが猪に向って投げた槍がエウリュティオーンに誤って当ってしまい、悪いことにそのためにエウリュティオーンは死んでしまったのでした。自分の恩人を誤って殺してしまったため、もはやプティエーには帰れないと考えたペーレウスはイオールコスにやってきてアカストスに自分の庇護を求めたのでした。


(カリュドーンの猪)


アカストスは、彼の願いを聞いて、その殺人の穢れを清めてやりました。その後、ペーレウスはペリアースのための葬礼競技に参加しました。そこで活躍するペーレウスの姿をアカストスの妻アステュダメイアが見て、彼に恋してしまいました。そこでペーレウスをひそかに誘ったのですが、ペーレウスに拒絶されます。怒ったアステュダメイアは、ペーレウスの妻アンティゴネーに「ペーレウスはアカストスの娘ステロペーと結婚しようとしている」という偽りの知らせを送りました。その知らせを聞いたアンティゴネーは縊死してしまいます。それでも怒りがおさまらないアステュダメイアは、夫アカストスにペーレウスが自分に迫って来たとウソを言いました。怒ったアカストスは、それでも自分がその罪を清めた男を自分の手で殺すことは憚られたので、ペーレウスをペーリオン山中に置き去りにしようと考えました。そこには乱暴なケンタウロス族が住んでいるので、彼らに襲われるかもしれないと考えたからでした。


アカストスはペーレウスをペーリオン山での狩に招待しました。二人は狩の競争をしましたが、ペーレウスが圧勝しました。狩で疲れたペーレウスは山中で休んでいるうちに眠ってしまいました。するとアカストスは、彼の守り刀を抜いて牛糞の中に隠したのちに、彼を置いて帰ってしまいました。


やがて目が覚めたペーレウスは刀がないことに気付き、探し始めました。そこに半人半馬のケンタウロス族の一群がやってきて彼を囲みました。彼が身の危険を感じた時に運よくケンタウロス族のなかの賢者ケイローンがやってきて、ペーレウスを助けました。


こんな目にあったペーレウスは、のちイアーソーンと協力して兵を率い、イオールコスを攻めて破壊しました。そしてアステュダメイアを捕えて八つ裂きにしたということです。アカストスもこの時に殺されたとも言われます。このあと、イオールコスはイアーソーンが治めたともイアーソーンの息子テッサロス(彼にちなんでこの地方はテッサリアと呼ばれるようになったと言われる)が治めたとも伝えられていますが、はっきりしません。