神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

2019-01-01から1年間の記事一覧

レームノス島(ミュリーナとヘーパイスティア)(11):ペルシア戦争

レームノス島:目次へ ・前へ BC 498年、イオーニアの反乱が始まります。英語版のWikipediaの「ミルティアデース」の項によれば、ミルティアデースもこの反乱に参加したということです。しかしヘーロドトスにはそのことは出てきません。いずれにしろ、イオー…

レームノス島(ミュリーナとヘーパイスティア)(10):ミルティアデース

レームノス島:目次へ ・前へ ・次へ さて、レームノス島のペラスゴイ人たちがアテーナイ人に対して「北風を受けた船がアテーナイからわがレームノスまで一日で達することができた暁には、レームノスを引き渡そう」と捨て台詞を吐いたところで伝説は途絶えて…

レームノス島(ミュリーナとヘーパイスティア)(9):レームノス石碑

レームノス島:目次へ ・前へ ・次へ 話は変わってずっと現代に近い1885年のこと、レームノス島のカミニアという町の近くにある教会の壁に奇妙な石碑が組み込まれているのが発見されました。その石碑には古代のギリシア文字で文章らしきものが刻まれていまし…

レームノス島(ミュリーナとヘーパイスティア)(8):レームノス的

レームノス島:目次へ ・前へ ・次へ レームノス島にやってきたペラスゴイ人たちは、アテーナイから追い出されたのでした。そして彼らはアテーナイ人に報復しようとしていました。(しかし、アテーナイとレームノス島は直線距離で240kmぐらいあります。すご…

レームノス島(ミュリーナとヘーパイスティア)(7):ペラスゴイ人の来襲

レームノス島:目次へ ・前へ ・次へ ソーポクレースの悲劇「ピロクテーテース」は良く出来たお話ですが、レームノス島が無人島になっている点がつじつまが合いません。レームノス島に人がいるのならば、困っているピロクテーテースを助けたことでしょう。実…

レームノス島(ミュリーナとヘーパイスティア)(6):ピロクテーテース

レームノス島:目次へ ・前へ ・次へ トロイア戦争に参加したピロクテーテースは、テッサリアのマグネシアのメートーネーという町の王でした。ピロクテーテースがレームノス島に置き去りにされた話は古いものらしく、すでにホメーロスの「イーリアス」に、以…

レームノス島(ミュリーナとヘーパイスティア)(5):トロイア戦争

レームノス島:目次へ ・前へ ・次へ エウネーオスがレームノスの王の時にトロイア戦争が起こります。エウネーオスは戦いには加わりませんでしたが、ギリシア方を援助していました。イーリアスではエウネーオスの名は以下のように登場します。 折ふしレーム…

レームノス島(ミュリーナとヘーパイスティア)(4):ヒュプシピュレー

レームノス島:目次へ ・前へ ・次へ アルゴー号というのは船の名前です。アルゴー号を率いるイアーソーンは、黒海東岸にあるコルキスの地(今のジョージア)を目指していました。それは、そこにある黄金の羊の毛皮を奪うためでした。そしてそれは、不当に奪…

レームノス島(ミュリーナとヘーパイスティア)(3):トアース

レームノス島:目次へ ・前へ ・次へ 神話の世界でレームノス島の王として名前が挙がっているのがトアースです。彼はブドウ酒の神ディオニューソスとその妃アリアドネーの子供でした。アリアドネーが人間の女の身でどうしてディオニューソスの妃になったのか…

レームノス島(ミュリーナとヘーパイスティア)(2):カベイロイ

レームノス島:目次へ ・前へ ・次へ レームノス島では、ヘーパイストスと関連してカベイロイに対する信仰もありました。このカベイロイという言葉は複数形であり、単数はカベイロスと言います。ですので、カベイロイはカベイロスたちということになります。…

レームノス島(ミュリーナとヘーパイスティア)(1):ヘーパイストス

レームノス島:目次へ ・次へ レームノス島はエーゲ海の東の北側に浮かぶ島です。今は休火山になっていますが、ギリシア古典期には活火山の島でした。そのため、レームノス島は、ギリシア神話における火と鍛冶の神であるヘーパイストスと関連づけられていま…

レームノス島(ミュリーナとヘーパイスティア):目次

都市一覧へ 1:ヘーパイストス レームノス島はエーゲ海の東の北側に浮かぶ島です。今は休火山になっていますが、ギリシア古典期には活火山の島でした。そのため、レームノス島は、ギリシア神話における火と鍛冶の神であるヘーパイストスと関連づけられてい…

ヘルミオネー(12):ペルシア戦争

ヘルミオネー:目次へ ・前へ やがてクセルクセース王率いるペルシアの陸軍と海軍がギリシアの北から南下してきました。ところが、ヘルミオネーはペルシアの脅威に対して最初はあまり認識を持っていなかったように見えます。 少なくとも、陸におけるテルモピ…

ヘルミオネー(11):ラソス

ヘルミオネー:目次へ ・前へ ・次へ ヘルミオネーがヒュドレイア島をサモス人たちに売却して数年後のことですが、アテーナイで活躍するヘルミオネー出身の詩人がいました。彼の名はラソスでした。この頃、アテーナイを支配していたのはペイシストラトスの子…

ヘルミオネー(10):ヒュドレイア島

ヘルミオネー:目次へ ・前へ ・次へ ヘルミオネーが領有していたヒュドレイア島は、そこにある泉にちなんでギリシア語の水を意味するヒュドレアから名づけられました。現在ではイドラ島と呼ばれ、エーゲ海ミニクルーズの船が寄港する観光地になっています。…

ヘルミオネー(9):カラウレイア同盟

ヘルミオネー:目次へ ・前へ ・次へ ドーリス人の南下よりのちの時代のヘルミオネーについて、英語版のWikiediaでは以下のように説明しています。 ヘルミオネーはドリュオピス人の町の中で最も重要であったようであり、かつては隣接する海岸のより大きな部…

ヘルミオネー(8):イーピゲネイアとヘルミオネー

ヘルミオネー:目次へ ・前へ ・次へ 以上、イーピゲネイアとヘルミオネーの物語をご紹介しました。私が思うにこの2つの物語には奇妙な類似点があります。 イーピゲネイアもヘルミオネーもオレステースによって連れ戻されていること。 イーピゲネイアは、嘘…

ヘルミオネー(7):王女ヘルミオネー

ヘルミオネー:目次へ ・前へ ・次へ (右:ヘルミオネー) ヘルミオネーはスパルタ王メネラーオスと王妃ヘレネーの一人娘でした。ヘレネーがこの娘ヘルミオネーを置いてトロイアに出奔したこと、そしてそれがトロイア戦争の原因になったことはすでに述べま…

ヘルミオネー(6):タウリケのイーピゲネイア

ヘルミオネー:目次へ ・前へ ・次へ タウロイ人の国タウリケでの風習のひとつには、その国にやってきた異国人、特にギリシア人をアルテミスにいけにえとして捧げるというものがありました。イーピゲネイアは、それに直接手を下すことは要求されませんでした…

ヘルミオネー(5):アウリスのイーピゲネイア

ヘルミオネー:目次へ ・前へ ・次へ イーピゲネイアの物語は常に女神アルテミスが関係しています。 (上:女神アルテミス) イーピゲネイアは、トロイア戦争でギリシア側の総大将となったミュケーナイ王アガメムノーンの長女でした。母親はクリュタイメース…

ヘルミオネー(4):デーメーテール・クトニアー(冥界のデーメーテール)

ヘルミオネー:目次へ ・前へ ・次へ (上:エルミオニー「ヘルミオネー」の現在の地名のGoogle衛星写真) ヘルミオネーは長い岬の上に建設されていました。そしてその両側には港がありました。かなり後の時代のことになりますが、AD 2世紀のパウサニアース…

ヘルミオネー(3):ドリュオペス人の移住

ヘルミオネー:目次へ ・前へ ・次へ 前回の最後で紹介したヘーラクレースの物語の異伝にあたるものが、高津春繁著「ギリシア・ローマ神話辞典」に載っていました。 ヘーラクレース (中略) [ドリュオプス人およびラピテース人との戦] ヘーラクレースはデ…

ヘルミオネー(2):ヘルミオネーの起源

ヘルミオネー:目次へ ・前へ ・次へ まずは、町のほうのヘルミオネーについて、その起源を調べていきます。ヘーロドトスは次のように書いています。 ヘルミオネ人は本来ドリュオペス人で、ヘラクレスとマリス人によって今日ドーリスと呼ばれる地方から追わ…

ヘルミオネー(1):2つのヘルミオネー

ヘルミオネー:目次へ ・次へ ヘルミオネーは、エーゲ海の西側、スパルタの東にあります。 私はずっとヘルミオネーという町の名前は、ギリシア神話に登場するヘルミオネーという女性に由来するのだろう、と思っていました。ヘルミオネーは、トロイア戦争の原…

ヘルミオネー:目次

都市一覧へ 1:2つのヘルミオネー 私はずっとヘルミオネーという町の名前は、ギリシア神話に登場するヘルミオネーという女性に由来するのだろう、と思っていました。ヘルミオネーは、トロイア戦争の原因となった絶世の美女ヘレネーの一人娘です。しかし、…

スミュルナ(9):女神ローマの発明

スミュルナ:目次へ ・前へ スミュルナには、アレクサンドロス大王の指示によって建設された新スミュルナと、それまでの旧スミュルナの2つの町があったのでした。旧スミュルナについては代表的な人物として詩人のミムネルモスをご紹介しました。そこで新ス…

スミュルナ(8):ミムネルモス(2)

スミュルナ:目次へ ・前へ ・次へ ミネムルモスより約300年後の、エジプトのアレクサンドリアに集まったギリシア人の学者たちは、往古の詩人たちの詩集を編纂したのですが、ミネムルモスの分は2冊の本にしかなりませんでした。ステーシコロスという詩人の…

スミュルナ(7):ミムネルモス(1)

スミュルナ:目次へ ・前へ ・次へ スミュルナには、アレクサンドロス大王の指示によって建設された新スミュルナと、それまでの旧スミュルナの2つの町がありました。今回は旧スミュルナの盛期を生きたスミュルナ人であるミムネルモスをご紹介します。ミムネ…

スミュルナ(6):荒廃と復興

スミュルナ:目次へ ・前へ ・次へ スミュルナ占領に失敗したリュディア王ギュゲースは、その後、北からやってきた遊牧民のキンメリア人と戦って死にました。キンメリア人はその後西へと進んでエーゲ海岸沿いを襲撃していくのですが、スミュルナがキンメリア…

スミュルナ(5):スミュルナの市壁

スミュルナ:目次へ ・前へ ・次へ 英語版Wikipediaの「Fortifications of ancient Smyrna。古代スミルナの要塞」によると、スミュルナはBC 9世紀から頑丈な壁に囲まれていました。これはこの時代では比較的まれなことだったそうです。そのように頑丈な市壁…