神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

コリントス(3):メーデイア


メーデイアは、コルキス(今のジョージアあたり)で生まれました。父親はかつてコリントスの王であったアイエーテースで、太陽神ヘーリオスの息子で、今は、コルキスの王でした。彼は金羊毛皮という宝を所有しており、これを竜に守らせていました。この金羊毛皮を取ってくるという課題を与えられていたのが、イオールコスの人イアーソーンでした。彼は、自分を助けてくれる仲間たちとともに大きな船アルゴー号に乗って、イオールコスからはるばる東の涯コルキスまでやってきたのでした。そのわけはというと、イアーソーンの父アイソーンはイオールコスの王でしたが、イアーソーンが赤子の時に弟のペリアースによって王位を奪われ、幽閉されていました。イアーソーンは別のところで育ち、成人してから叔父ペリアースの許に向い、王位の返還を求めました。すると、ペリアースは返還の条件として、それが東の果ての国コルキスにあるという金羊毛皮を持ってこい、と命じたのでした。詳しくは「イオールコス(3):イアーソーン(1)」を参照下さい。


アイエーテース王に金羊毛皮を求めたイアーソーンに対して、王は難題を出しました。それは、戦争の神アレースから贈られた、鼻から火を吹き、青銅の蹄を持つ二頭の牡牛を軛につないで、畑に種を播くように竜の牙を播け、というものでした。この竜の牙はアイエーテースが所有していましたが、これを耕した地に播くと、そこから武装した気象の荒い男たちが生えてくる、という代物でした。イアーソーンが困っていると、メーデイアは彼に密かに助けを与えました。メーデイアはイアーソーンに恋したからです。メーデイアは魔法の術に通じていましたので、イアーソーンに、火によっても刀によっても害を蒙ることのない薬を与えました。この薬のおかげで、イアーソーンは、二頭の牡牛を軛につないで、竜の牙を播くことが出来ました。すると、地面から武装した男たちが続々と生えてきました。彼らは殺気立った様子をしていました。メーデイアはこの事態への対策もイアーソーンに告げていました。イアーソーンはメーデイアに言われたように身を隠し、男たちの中に石を投げ入れました。すると彼らは、自分たちの誰かが石を投げたと思いこんで、互いに戦い始めました。そして男たちがあらかた倒れてしまったところでイアーソーンは出て来て残りの男たちを退治してしまいました。


しかし、これを見てもアイエーテースは金羊毛皮をイアーソーンに渡そうとしませんでした。そこでメーデイアは父を捨ててイアーソーンについて行く決心をし、夜、館を抜け出して、イアーソーンの許に向いました。そして彼に妻にしてくれる約束で、金羊毛皮のあるところへ案内しました。金羊毛皮は木の枝にかかっており、その周りには一頭の竜がいて守っていました。メーデイアは薬で竜を眠らせたので、イアーソーンは金羊毛皮を手に入れることが出来ました。そしてイアーソーンとその仲間たちが夜の闇に紛れてアルゴー号を出港させる際、メーデイアも一緒に乗船しました。こうしてメーデイアイオールコスに来ることになり、イアーソーンの妻になりました。

(金羊毛皮を守る竜に飲み込まれたイアーソーンを女神アテーナーが助け出しているところ。イアーソーンの背後の木には金羊毛皮が懸けられている。)


イアーソーンが帰国すると、父親のアイソーンはすでに死んでいました。なかなかイアーソーンが帰ってこないことからイアーソーンの叔父ペリアース王は、イアーソーンがすでに死んだものと思い、アイソーンを殺そうとしたところ、アイソーンは牡牛の血を飲んで自決したのでした。そのことを知ったイアーソーンは、メーデイアに父親アイソーンの復讐を頼みました。メーデイアはペリアースの王宮に行き、ペリアースの娘たちに、自分はペリアースを若返らせることが出来ると、言いました。そして、娘たちの前で牡羊を八つ裂きにして大釜で煮、メーデイアが魔法をかけると、その牡羊は子羊になって大釜から出てきたのでした。それを見たペリアースの娘たちは、ペリアースを若返らせるためと言って、ペリアースを八つ裂きにしてその大釜に入れて煮たのでした。しかしメーデイアが魔法をかけなかったので、ペリアースは生き返らないままでした。驚いた娘たちはイオールコスを出て身を隠してしまいました。ペリアース王への復讐はこうしてなされたのですが、そのさまを知ったイオールコスの市民たちはイアーソーンに反感を持ち、イアーソーンの代りにペリアースの息子アカストスを支持して王位に就けました。アカストスはイアーソーンとメーデイアイオールコスから追放したので、彼らはコリントスに亡命しました。


この時コリントス王はクレオーンという人物だったと言います。イアーソーンとメーデイアの間にはメルメロスとペレースの二人の息子が生れました。メーデイアは十年間、家族と幸せに暮らしていました。しかしやがて不幸がやってきます。コリントスクレオーンは、イアーソーンを自分の婿にしたいと考え始めたのでした。クレオーンにはクレウーサという娘がいました。この娘とイアーソーンを結婚させようというのです。クレオーンはメーデイアと離別するようにイアーソーンを説得しました。やがてイアーソーンもその気になってきました。そしてクレオーンは邪魔になったメーデイアとその子供たちをコリントスから追放しようとしました。イアーソーンはそれに抗議もしません。メーデイアは夫の不実に怒り、イアーソーンとクレウーサの婚礼の祝いに、毒を塗った美しい衣を子供たちに持っていかせました。クレウーサがその衣を身にまとうと、衣から火が出て肉に食い込んでしまいました。それを助けようとした父親のクレオーンも衣がまとわりついてしまい、父と娘はともに焼け死んでしまいました。メーデイアはイアーソーンを苦しめるため、また、ほうっておいても怒ったコリントス人たちに子供たちが殺されると考え、自ら子供たちを殺しました。そして、祖父である太陽神ヘーリオスから貰っていた翼を持つ車に乗って、アテーナイのアイゲウス王のもとへ逃げていきました。

(上:竜の車に乗るメーデイア