神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

イオールコス(4):イアーソーン(2)

その後イアーソーンとアルゴー号に乗った英雄たち(彼らのことを「アルゴナウタイ」(アルゴー号乗組員たち)と呼びます)は、女だけの島に寄ったり(レームノス島)、有翼の怪物ハルピュイアイと戦ったり、両側から迫ってくる岩と岩(シュムプレーガデスの岩)の間を辛くも通過したり、といろいろな出来事に遭遇したのちに黒海の東岸のコルキスに到着しました。コルキスで竜が守っている「金羊毛皮」を取ってくるのにも苦労があったのですが、有名な話ですし、イオールコスとはあまり関係がないので省略します。イオールコスとの関係で重要なのは、イアーソーンが「金羊毛皮」を持参して無事にイオールコスに帰国したことと、コルキスの王女メーデイアと恋仲になり、メーデイアを一緒に連れてきたことです。

(金羊毛皮を守る竜に飲み込まれたイアーソーンを女神アテーナーが助け出しているところ。イアーソーンの背後の木には金羊毛皮が懸けられている。)


この物語は古くから知られていたようで、すでにヘーシオドスによって簡潔に歌われています。

さて、アイソンの息子(イアソン)は、常磐(とこわ)にいます神々の勧めで
ゼウスの愛でる王 アイエテスの娘(メデイア)を
アイエテスのもとから 連れ出した
尊大な王 傲慢 無謀 暴威を縦(ほしいまま)にする男ペリアスが課した
数々の辛い難題を果たし終えてから。
これらを果たし終えると アイソンの息子は
眼輝く乙女を 脚迅(はや)い船に乗せ 粒粒辛苦の末
イオルコスに着き 彼女を咲き匂う妻とした。


ヘーシオドス「神統記」廣川洋一訳 より


(ペリアース王に金羊毛を見せるイアーソーン)


イアーソーンが帰国してから物語は急に陰惨なものに変わっていきます。イアーソーンが帰国すると、父親のアイソーンはすでに死んでいました。なかなかイアーソーンが帰ってこないことからペリアース王は、イアーソーンがすでに死んだものと思い、アイソーンを殺そうとしたところ、アイソーンは牡牛の血を飲んで自決したのでした。そのことを知ったイアーソーンはペリアースに対して復讐を計画します。


コルキスの王女メーデイアは不思議な術を使うことが出来る魔女でした。イアーソーンはメーデイアに父親アイソーンの復讐を頼んだのです。メーデイアはペリアースの王宮に行き、ペリアースの娘たちに、自分はペリアースを若返らせることが出来ると、言いました。そして、娘たちの前で牡羊を八つ裂きにして大釜で煮、メーデイアが魔法をかけると、その牡羊は子羊になって大釜から出てきたのでした。それを見たペリアースの娘たちは、ペリアースを若返らせるためと言って、ペリアースを八つ裂きにしてその大釜に入れて煮たのでした。しかしメーデイアが魔法をかけなかったので、ペリアースは生き返らないままでした。驚いた娘たちはイオールコスを出て身を隠してしまいました。


ペリアース王への復讐はこうしてなされたのですが、そのさまを知ったイオールコスの市民たちはイアーソーンに反感を持ち、イアーソーンの代りにペリアースの息子アカストスを支持して王位に就けました。アカストスはイアーソーンとメーデイアをイオールコスから追放したので、彼らはコリントスに亡命しました。その後アカストスは、亡父のために盛大な葬礼競技を行なったのでした。