神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

キオス(2):オーリーオーン

キオスを神話の時代までさかのぼると、オーリーオーンが登場します。星座のオリオン座のオリオンのことです。本当は、オーリーオーンと長音で発音します。

オーリーオーンは、かなり昔から星座として認識されていました。神話のオーリーオーンは巨人の狩人で、水の上を歩くことが出来る、と言われていました。これは星座のオリオンを船から見た情景から来ているのではないでしょうか? オリオン座の三ツ星はほぼ天の赤道上にあるので、真東から上り真西に沈みます。こういうところから古代の船乗りたちが海で方角を見つけるのにオリオン座が使われた、ということを聞いたことがあります。海上に浮かぶオリオン座は、船乗りたちに、海の上を歩く巨人を想像させたのではないかと思います。もっと想像をたくましくすれば、エーゲ海の東側に居住地を求めて航海したイオーニア人たちが、このオーリーオーンの神話を作ったのかもしれないとも思うのです。そして、その中にはキオスを建設した人々がいたのかもしれません。


オーリーオーンは巨人で(上の星座の画像ではそうでもありませんが)美男子の狩人とされています。彼の両親についてはさまざなな説があるのですが、その中には父親は海の神ポセイドーンという説があります。そのために彼は海上を歩く能力をポセイドーンから授かったのだそうです。彼にはシーデーという妻がいたのですが、シーデーは神々の女王ヘーラーと美を競ったために、ヘーラーの怒りにふれ、タルタロスという地中深くにある世界に投げ込まれてしまいました。


さて、やもめになったオーリーオーンがキオス島に来て鹿狩りをしていた時に見初めたのが、キオスの当時の王オイノピオーンの娘のメロペーでした。メロペーがオーリーオーンのことをどう思ったのか、伝えられておりません。しかしその父親のオイノピオーンはオーリーオーンのことを嫌っていました。大事な娘をオーリーオーンに娶わせるなんて、とんでもない。そこでオイノピオーンはオーリーオーンに難題をふっかけます。「このキオス島にいる野獣という野獣を全て退治してくれ。そしたら娘のことを考えてやってもよいぞ。」とオイノピオーンはオーリーオーンに言いました。オイノピオーンは、全て退治することなどとうてい出来ないと考えてこう言ったのですが、オーリーオーンは手に持った棍棒で(上のオリオン座の画像にあるようにです)キオス島じゅうの野獣を全て叩きのめして、たちまち退治してしまいました。そして再びメロペーを求めてオイノピオーンのところにやってきました。これは困ったことと思ったオイノピオーンは、表面上はオーリーオーンを歓待し、ワインで酔わせて泥酔させました。実はオイノピオーンの父親はワインの神ディオニューソス、母はアリアドネーで、(つまりは「レームノス島(ミュリーナとヘーパイスティア)(3):トアース」でお話ししたレームノス王トアースの弟で、)上等なワインを作る名人でした。赤ワインの作り方は彼が発明したといいます。オイノピオーンは眠ってしまったオーリーオーンの眼をつぶして、海岸に棄ててしまいました。


盲目になったオーリーオーンは、耳を澄ませました。するとどこからか鍛冶の音が聞こえます。これはレームノス島にあるヘーパイストス神の鍛冶場から聞こえてくるのでした。オーリーオーンは海を渡ってレームノス島に行き、そこでヘーパイストスの手伝いをしている少年ケーダリオーンを呼んで、自分の肩に載せました。そしてケーダリオーンに太陽の登る方向を教えるように言いました。こうしてオーリオーンは太陽の登る地方まで歩いて行くと、太陽の光線を顔面に当てたのでした。すると視力が回復したのです。

(上の絵の左が、鍛冶の神ヘーパイストス


再び目が見えるようになったオーリーオーンはオイノピオーンに復讐しようとキオス島に戻ってきます。しかしキオスの人々はオイノピオーンを、地下に作った隠れ家にかくまいました。オーリーオーンはしばらくキオス島でオイノピオーンを捜索していたのですが、その時、曙の女神エーオースがオーリーオーンに恋して、彼をさらってデーロス島に連れて行ってしまいました。


オーリーオーンの話はもう少し続くのですが、キオスとは関係がないので、この話はここまでとします。この話はキオスとレームノスの関係の深さを暗示しているように思えます。オイノピオーンはレームノスの王トアースの弟でしたし、オーリーオーンも自分が窮地に陥った時に、助けを求めてレームノスに行っているからです。