神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

クノッソス(19):プラトーンが再構成した先史時代(3): トロイア戦争

プラトーントロイアの建設の伝説を取り上げ、それをもとに、人びとが山麓から平野に下りて来た時代があったとしています。

アテナイからの客人 それはホメロスが、二番目につづき、三番目のものはこのようにして生じたと言いながら、言い及んでいたものです。彼は、こんなふうにうたっています。

彼(ダルダノス)がダルダニアの都(=トロイアのこと)を建設せしは
言葉を話す人間たちの都
いまだ平野にきずかれず
人びとがなお、泉豊かなるイデの山麓に住みなしていた頃のこと

(中略)


アテナイからの客人 さて、わたしたちはこう伝えています。イリオン(トロイア)が建設されたのは、(人びとが)高い山から大きく美しい平野に下りてきた頃で、上流にあたるイデ山から発した多くの川の近くにもった、さほど高からぬ丘の頂きにおいてであったと。


レイニア たしかに、そういうふうに伝えられています。


アテナイからの客人 するとそれが行われたのは、あの洪水の後、ずいぶんと長い時がたってからのことだと、わたしたちは考えはしないでしょうか。


レイニア もとより、長い時がたってからのことです。


アテナイからの客人 というのも、彼らは、今しがた話された(大洪水による)滅亡のことなど、その頃はすっかり忘れていたように思われますからね。なにしろそんなふうに、高い山から流れてくるたくさんの川のほとりで、あろうことか、さほど高くもない丘の頂きを信頼して、都市を建設したというのですから。


レイニア ですから、あの不幸な出来事から、まことに長い時がたっていたのはいうまでもありません。


アテナイからの客人 それにまた、人間の数の増大に伴い、他にもたくさんの都市が、その頃はすでに建てられていたものと思われます。


レイニア もちろんです。


プラトーン「法律」第3巻第4章 森進一・池田美恵・加来彰俊訳 より


そしてトロイア戦争に話を進めます。ただし神話にあるようにギリシアの神々が活躍することはなく、現実にあり得そうな事柄だけを抽出し、それを歴史として叙述しています。

アテナイからの客人 きっとそれらの都市が、かのイリオン(トロイア)に向かって軍を勧めたのでしょうね、それも、おそらくは海路をも使って、その頃はすでに、誰もが、恐れることなく海を使っていたのですから。


同上


トロイア戦争の原因としては、物語にあるような、美女として名高いスパルタの王妃ヘレネーをトロイアの王子パリスが奪い去った、といういかにも作り話めいた原因を語らず、抽象的ですが、もっと現実的な原因を語っています。

アテナイからの客人 (中略)異国が不正を働く例としては、たとえば、かつてイリオン(=トロイア)の住民たちが、ニノス王朝当時に存在していたアッシュリアの勢力を頼み、思いあがった気持から、あのトロイア戦争を招きよせるに到ったようなことが、それにあたるでしょう。


プラトーン「法律」第3巻第6章 森進一・池田美恵・加来彰俊訳 より

そしてトロイアとアッシュリア(=アッシリア)の関係について気になることを書いています。

というのもトロイアは、彼らの帝国(=アッシリア帝国)の一部だったからです。


同上

これは本当の話でしょうか? ここで現在の考古学の成果を参照すると、トロイアが栄えていた当時、確かにアッシリアという国は栄えていたのですが、トロイアの近くにはアッシリアに匹敵する大国であるヒッタイトが存在しており、トロイアアッシリアの一部だったとは考えられません。しかし、トロイアヒッタイトの一部、つまり属国だったということは、よりあり得そうです。ヒッタイトの当時の外交文書にはトロイアを指すと思われるウィルサという国が登場するからです(「トロイア(8):ヒッタイト王国の動乱」参照)。

(上:BC1200年頃の各王国の領域。ただしアカイアは単一の国ではなく、いくつかの国に分かれている。)