神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

ポーカイア(2):故郷のポーキス

ポーカイアに植民した人々の故郷であったポーキスは、神話によればポーコスという人物が開発した(または征服した)とされており、このポーコスにちなんでこの地方をポーキスと呼ぶことになった、ということです。このポーコスの親については、アイギーナ島の領主アイアコスと海の女神プサマテーであるという説と、コリントスの領主オルニュトスの子(母親については不明)という説があります。アイアコスとプサマテーの間の子である、という説では、アイアコスがプサマテーに求婚した時にプサマテーが嫌がって「あざらしに変身したという話があります。プサマテーもその父親のネーレウスも変身が得意な神々でした。「あざらし」のことをギリシア語でポーケというので、このことから生れた息子の名前はポーコスになったといいます。このポーコスは、いろいろな競技が得意であったために、父親のアイアコスからは溺愛されましたが、異母兄のペーレウス(有名な英雄アキレウスの父親です)とテラモーン(こちらもトロイア戦争で活躍するアイアースの父親です)には憎まれました。とうとうこの二人によってポーコスは殺されてしまい、それを知って激怒したアイアコスによって、ペーレウスとテラモーンの二人はアイギーナ島を追放されてしまいました。この話からすると、ポーコスは若いうちに殺されてしまうので、ポーキスを征服する時間はなかったように思えます。しかし、ポーコスはポーキスを征服し、そこでアステロピアーという娘と結婚し、子供も出来たという伝えもあるので、これらの話は矛盾しています。


一方、コリントスのオルニュトスの子であるという説では、オルニュトスがポーキスを征服し、息子のポーコスにその地を譲ったということになっています。


いずれにせよ、ポーコスはポーキス地方の王となり、アステロピアーとの間パノペウスとクリソスの双生児を儲けました。パノペウスは長じて町を建設し、自分の名前をつけてパノペウスとしました。クリソスも町を建設し、その町をクリッサと名付けました。この兄弟は仲が悪いということでしたが、具体的にどのようなことがあったのかは、調べてもよく分かりませんでした。クリソスの子がストロピオスで、彼もまたクリッサの王になりました。彼は当時権勢並びなかったミュケーナイ王アガメムノーンの妹アナクシビエーを妻に迎え、ピュラデースを儲けました。アガメムノーンはトロイア戦争ギリシアの総大将としてギリシア勢を率いた人物です。ギリシア勢がトロイアを破壊したのち、アガメムノーンはミュケーナイに帰国しますが、そこで自分の妻クリュタイメーストラーに殺されてしまいます。この時、まだ幼かったアガメムノーンとクリュタイメーストラーの息子オレステースは、オレステースの姉のエーレクトラーによってポーキスのストロピオスのところに送られます。ミュケーナイはクリュタイメーストラーの愛人アイギストスによって支配されることになり、オレステースに危害が及ぶ可能性があったからです。オレステースはストロピオスの許で、ストロピオスの息子ピュラデースとともに育てられました。オレステースとピュラデースは友情に結ばれます。やがて成人したオレステースは、父親の仇を討つためミュケーナイに戻り、母親クリュタイメーストラーとその愛人アイギストスを殺害しようとします。その時、ピュラデースもミュケーナイに同行しました。オレステースは母親の殺害に成功しますが、母殺しは古代ギリシアにあって重大な罪であり、そのために今度は復讐の女神たちに追いかけられることになり、狂気に陥ってしまいます。この復讐の女神たちから逃れる手段としてアポローンの神託は、遠い黒海沿岸にあるタウリケの国からアルテミス女神の像を持ってくることを命じていました。そのためオレステースはタウリケに向うのですが、その時もピュラデースは同行しています。

(上:オレステースとピュラデース)


その後、ピュラデースはオレステースの姉であるエーレクトラーと結婚し、2人の間にはストロピオスとメドーンという2人の息子が生れます。この2人については物語が伝わっていないようです。このストロピオスとメドーンが活躍する頃か、その次世代の頃に、ヘーラクレースの子孫がドーリス人とともにペロポネーソス半島に進撃してきたはずですが、その時ポーキスにどのようなことがあったかについても、伝えられていないようです。


ポーキスの人々がアテーナイ人ピロゲネースとダモーンに従って小アジアに渡り、ポーカイアを建設したのは、ヘーラクレースの子孫のペロポネーソス占拠よりもあとの話です。ポーコスから始まるポーキスの物語の糸が、ポーカイア建設までつながっていれば私としてはうれしかったのですが、どうやらストロピオスとメドーンのところでその糸は切れてしまっているようです。