神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

イオス(4):エーゲ海のピラミッド

イオス島にあるスカルコス遺跡はキュクラデス文明の遺跡です。キュクラデス文明は4期に分かれていて、古いものから順に、グロッタ・ペロス文化、ケロス・シロス文化、カストリ文化、フィラコピ文化、という名前が付けられています。このスカルコス遺跡はケロス・シロス文化に属するもので、時代はBC 2700~2300年と推定されています(学者によって絶対年代の推定は異なります)。エジプトで言えば古王国時代トロイアで言えばトロイアⅡに当ります。

そこは1984~1997年に発掘され、非常に保存状態のよい都市が見つかりました。そこには2階建ての建物が並び、各建物には中庭が設けられていました。1階は食事の準備に使用され、2階は居間や商品の保管場所、場合によっては作業場として使用されていたとみられています。


さて、この遺跡が属するケロス・シロス文化ですが、この名前はこの文化の中心地と見られるケロス島とシロス島にちなんで名づけられました。シロス島もキュクラデス諸島の中にありますが、ケロス島のほうがイオス島により近いです。そこでケロス島について調べていたところ面白い記事を見つけたので、イオス島の話ではないのですが、ここでご紹介したいと思います。


ロス島はイオス島よりもさらに小さく、英語版Wkipediaの「ケロス島」の項によれば、現在はケロス島に上陸することは禁止されているとのことです。



ロス島からは、写真のような確かな美的感性を感じさせる彫刻が出土しています。




あるいは、抽象美術のような人物像も出土しています。

これらも興味深いですが、もっと興味深いのは、ケロス島の西に位置するダスカリオ島という極々小さい島についての記事です。

この記事によれば、今から4000年以上前にダスカリオ島はその全体を石(おそらく大理石)で覆われ、ピラミッドのような形になっていた、というのです。

ダスカリオ
2007年から2008年にかけて、同じプロジェクト(=ケンブリッジ・ケロス・プロジェクト)は、近くのダスカリオ島でキュクラデス時代のかなりの規模の集落を特定し、発掘しました。広い範囲が発掘され、長さ16メートル、幅4メートルの本格的な建物が明らかになりました。この建物の中には、銅製または青銅製のノミ、斧、キリからなる「ダスカリオの貯蔵庫」が発見されました。発掘調査に加えて、島の調査によると、青銅器時代初期にはその表面の大部分(合計7000平方メートル)が占拠されており、キュクラデス諸島で最大の遺跡となっています。地形学、地質学、岩石学、セラミック岩石学、冶金学および環境側面(植物および動物の残骸、植物化石)に関する専門家の研究が続きました。


2012年に、この遺跡での活動はBC 2750~2300年の年代であると判明し、それはエーゲ海で確認されたいかなる神々の崇拝にも先行していました。


2018年の発掘調査では、かつてケロス島にくっついていた小島(=ダスカリオ島)に、巨大な階段状の壁と巨大な輝く建造物が残っていることが明らかになりました。建造物は1,000トンの石を使用して構築され、直径わずか500フィート(150 m)の岬をひとつの巨大な「ピラミッド」に変えていました。ピラミッドの麓で、研究者たちは複雑な排水トンネルと高度な金属加工の痕跡の証拠を発見しました。研究者たちは、この遺跡によってこの島は青銅器時代初期のエーゲ海で最も印象的な遺跡の1つになったと言います。発掘調査によると、かつてケロスに隣接していたが、海面上昇のために現在は小島となっているダスカリオの岬は、注目に値する記念物でほぼ完全に覆われていました。


英語版Wikipediaの「ケロス島」の項より


(ダスカリオ島)


折しもこの時代はエジプトでピラミッドが建造された時代でした。この遺跡はその影響を受けたのでしょうか? それに関して気になるのは、エジプトのピラミッドの全てがナイル河の「西岸」に建設されているという事実です。このエーゲ海のピラミッドもケロス島の「西側」にあるので、何か類似する思想が背景にあるのか、とも考えました。


そのようなことを抜きにしても、海に浮かぶ真っ白なピラミッドという光景は想像力を刺激します。それはどんな性質の神、または神々を祭ったものなのでしょうか? イオス島のスカルコス遺跡にかつて住んでいた人々もこの建造物を礼拝していたのでしょうか? そしてこの建造物はいつまで残っていたのでしょうか? あとからこの海域に進出した人々、たとえばフェニキア人たちやイオーニア人たちは、このピラミッドを見ることは出来たのでしょうか? そんなことも頭に思い浮かびました。


私が調べることが出来たイオス島の古代に関する話題は以上のものです。お読み下さりありがとうございます。

(現代のイオス島の風景)