神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

ヘルミオネー(7):王女ヘルミオネー




(右:ヘルミオネー)


ヘルミオネーはスパルタ王メネラーオスと王妃ヘレネーの一人娘でした。ヘレネーがこの娘ヘルミオネーを置いてトロイアに出奔したこと、そしてそれがトロイア戦争の原因になったことはすでに述べました。ヘルミオネーは最初いとこのオレステースと婚約していたのですが、以下のような理由でその婚約は破棄され、アキレウスの息子ネオプトレモスと婚約することになりました。その理由とは、トロイア戦争ギリシア第一の勇士アキレウスが戦死して、ギリシア側がトロイアを攻めあぐねていた時、「トロイアを陥落させるにはアキレウスの息子ネオプトレモスの参戦が必要である」との神託を得たのでした。そこでネオプトレモスを戦争に参加させるために、メネラーオスはヘルミオネーをネオプトレモスと婚約させたというわけです。


トロイア戦争後、ヘルミオネーはネオプトレモスの領土プティーアに嫁いでいきます。オレステースはメネラーオスに抗議しますが、その頃のオレステースは復讐の女神たちに追われて狂乱状態でしたのでメネラーオスは相手にしませんでした。


ティーアのネオプトレモスの所に来たヘルミオネーは、そこでネオプトレモスには妾(めかけ)がいること、そして子供までいることを知ります。その人物はアンドロマケーといい、かつてトロイア戦争トロイア側の第一の勇士だったヘクトールの妻だった人でした。ネオプトレモスはこのアンドロマケーを戦利品としてギリシア軍から贈られていたのでした。ちなみにヘクトールを戦場で討ち取ったのは、ネオプトレモスの父アキレウスでした。


その後、ヘルミオネーには子供が出来ませんでした。もうこれは重苦しい雰囲気の家庭です。自分の夫を殺した男との間に子供を持つことになったアンドロマケーもかわいそうですし、自分には子供が生まれないのに、夫が別の女との間に子供を持っているのを見るヘルミオネーもかわいそうです。エウリーピデースの悲劇「アンドロマケー」では、ヘルミオネーは意地悪な性格に描かれていて、アンドロマケーが魔法で私に子供が出来ないようにしている、と言ってアンドロマケーを責め、夫が留守の間にアンドロマケーとその子(男の子です)を亡きものにしようと図ります。


一方、夫ネオプトレモスはデルポイアポローンの神託を求めに行きました。自分の父親アキレウスを殺したのはトロイアの王子パリスでしたが、それを助けたのが神アポローンだったのです。アポローンがなにゆえに自分の父を敵視したのか、アポローンの声を伝えるという巫女に尋ねようとしたのでした。しかしそれ自体が不敬な行為だったのでしょう。ネオプトレモスはデルポイで殺されてしまいます。彼は、デルポイの神殿奉仕の人々に殺されたとも、オレステースとその仲間によって殺されたとも言われます。また、その時に神殿の奥から大きな声がして、ネオプトレモスを襲撃する者たちを勇気づけたとも言われています。その後、オレステースはヘルミオネーをプティーアから連れ去り、ミュケーナイで二人は結婚しました。そして二人の間には息子ティーサメノスが生まれました。


その後のヘルミオネーについては伝えられていません。伝えられていない、ということはたぶん幸福だったんじゃないか、と私は思います。オレステースはミュケーナイ王であるうえに、スパルタの王位も継承して90歳まで生きたと伝えられています。