神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

アイギーナ(2):アイギーナの名の由来

アイギーナという島の名前は、神話によればアイギーナという名前の女性に由来します。「テーラ(3):エウローペーを探すカドモス」で紹介したエウローペーという女性がヨーロッパという地名の由来になったのに似ています。そしてエウローペーの話と同じように神々の王ゼウスによってさらわれ、ゼウスの子を産んだのでした。エウローペーの話では娘の失踪を知った父親は、息子たちに娘の行方を探させたのでしたが、アイギーナの話では父親自身が娘の行方を捜したのでした。では、アイギーナの話を始めます。



ペロポネーソス半島の真ん中あたりから北へ流れるアーソーポスという名前の川があります。アイギーナはこの川の神アーソーポスの娘でした。アイギーナが美しく育った時にゼウスはいつものようにこの娘に目を止め、さっそく誘拐したのでした。父親は娘を探し求めてギリシアじゅうをさまよいました。アーソーポスがコリントスにやってきた時、当時のコリントスの王でおせっかいのシーシュポスが、ゼウスが娘をさらってあっちに逃げて行ったよ、とアーソーポスに教えたのでした。シーシュポスはコリントスアクロポリスに泉が欲しいと思っていたので、川神のアーソーポスに親切にし、その代わりに泉を作ってもらったのでした。これがペイレーネーの泉です。


一説にはこのことが後にゼウスの怒りを買い、シーシュポスはあの有名な罰を受けたということです。つまり、彼はタルタロス(地下の世界)で罰として巨大な岩を山頂まで上げるよう命じられたのですが、彼が岩を押し上げてあと少しで山頂に届くというところで、岩は必ず転がり落ちて底まで行ってしまうのでした。そうするとシーシュポスは再びこの労役を最初から始めなければなりません。このようにして、この罰は永遠に繰り返されることになるのでした。


これはのちの話ですが、話を戻してアーソーポスはといいますと、ゼウスを追ってやがて追いつきました。するとゼウスは無礼者と一喝して得意の武器である稲妻をアーソーポスに投げつけたのです。アーソーポスは雷を浴びて身体の一部が炭化してしまいました。それでアーソーポス川の河床には石炭があるのだといいます。アーソーポスは娘を諦めざるを得ませんでした。
一方ゼウスはアイギーナをアイギーナ島に連れて行きました。それまでこの島はアイギーナではなくオイノーネーという名前でしたが、アイギーナにちなんでアイギーナという名前に変わったのでした。アイギーナはこの島でゼウスの息子アイアコスを生みました。


そこでアイアコスについて調べてみますと、高津春繁著「ギリシアローマ神話辞典」に以下のように書かれていました。

アイアコス

  • ゼウスとアーソーポス河神の娘アイギーナとの子、ギリシアの英雄中もっとも敬虔な人。テラモーン(アイアースの父)とペーレウス(アキレウスの父)の二子をスキーローンの娘エンデーイスとのあいだに、海のニンフ、プサマテーとのあいだにポーコスを得た。ポーコスが運動競技に秀でているのをねたんで、テラモーンとペーレウスは彼を殺したために、アイギーナ島から追われた。この島はもとはオイノーネーなる名であったが、アイアコスの母の名を取ってアイギーナとなったもので、この島の住民が疫病で全滅した時(あるいは元来無人だったので)、ゼウスは彼の敬虔の償いとして蟻を人間に変えて、住民としたために、彼らはミュルミドーン人と呼ばれた。彼は旱魃に際してギリシア人を代表してゼウスに祈り、またアポローンとポセイドーンを援けてトロイアの城壁を築き、死後は冥府で亡者を裁いている。


高津春繁著 ギリシアローマ神話辞典 より


私にはこのアイアコスというのが印象が薄い感じがするのですが、アイアコスは後世、ギリシア人の間で崇拝の対象となっています。「死後は冥府で亡者を裁いている」という、日本で言えば閻魔様のような役割を考えると、私はアイアコスはもともと神ではなかったか、という気もします。