神話によればアイアコスはアイギーナの初代の王でした。そしてアイギーナの国民（というか都市国家なので市民とも呼ぶことも出来ます）はといいますと、ゼウスがアイアコスのために島にいる蟻を人間に変身させて国民にしたのでした。ギリシア語で蟻のことをミュルメクスと呼ぶので、彼らはミュルミドーン族と呼ばれました。さてその後の物語は、アイアコスの息子たち、つまりテラモーンとペーレウスがもう一人の息子ポーコスを殺すというふうに進みます。そのことを知ったアイアコスは怒ってテラモーンとペーレウスをアイギーナ島から追放してしまいます。テラモーンは隣の島であるサラミース島に移り、ペーレウスはもっと遠くのプティーアというところへ移ります。テラモーンのその後やペーレウスのその後についても物語が伝わっており、特にペーレウスは女神テティスと結婚して英雄アキレウスを息子に持ち、そのアキレウスはトロイア戦争でギリシア軍の第一の勇士として活躍することになります。一方、テラモーンの息子のアイアースもトロイア戦争でアキレウスに次ぐ勇士として活躍します。（トロイア戦争のギリシア方にはもう一人アイアースが登場しますので、その人物と区別して大アイアースと呼びます。） このアイアコスの子孫たちはアイアキダイと呼ばれています。
ところが、息子たちがいなくなってしまってからアイギーナがどうなったかについては話が伝わっていません。アイアコスが死んだときに誰がアイギーナの王位を継いだのかも分かりません。アイギーナの物語を書こうとする私にとっては困った話です。そこで別の伝承を調べてみました。
ヘーロドトスによればアイギーナはエピダウロスからの植民で、その住民はドーリス系であるといいます。ではエピダウロスはといいますと元々イオーニア人の町だったのですが、アルゴスから来たドーリス人たちによって占拠されたのでした。このあたりの話を紹介します。
ヘーラクレースの後裔がドーリス人を率いてペロポネーソス半島に侵入した時（彼らの言い分では帰還した時）、大将の一人テーメノスはくじでアルゴスを引き当て、アルゴスを支配することになりました。彼は同じヘーラクレースの子孫であるデーイポンテースを実の息子たちよりも目をかけて自分の娘ヒュルネートーと結婚させたので、息子たちはアルゴスの王位がデーイポンテースに継承されるのではないかと恐れて、父親のテーメノスを殺してしまいました。しかし、アルゴス市民もデーイポンテースの王位継承を支持したので、テーメノスの息子たちの王位奪取は失敗しました。彼らは国外に亡命すると国外の勢力の助けを借りてアルゴスを攻め、デーイポンテースをアルゴスから追い出しました。代わって亡命者となったデーイポンテースは東隣のエピダウロスに遁れました。当時のエピダウロス王ピテュレウスは、理由はよく分からないのですが、その後王位をデーイポンテースに譲り、自分は人民とともにアテーナイに移住しました。こうしてエピダウロスはドーリス人の町になったのでした。それまでこの町はイオーニア人の町だったのでした。この時ピテュレウスの息子プロクレースは一部の住民を率いてエーゲ海の東側にあるサモス島に植民しました。
その後エピダウロスはアイギーナ島を領有するようになりました。私が推測するにそれ以前はアイギーナ島にはイオーニア人が住んでいたのを追い出したのではないかと思います。やがてアイギーナ島では船を多数建造するようになり、アイギーナ島は貿易で栄えるようになりました。するとそこの住民はエピダウロスの政府に従うことを嫌い、独自に行動するようになり、やがてエピダウロスから独立したのでした。アイギーナは海運貿易で財を成した貴族階級が政権を運営するようになりました。
