神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

コリントス(17):ペリアンドロス(3)

ペリアンドロスがミーレートスの僭主トラシュブーロスを助けたという話があります。


この頃ミーレートスは毎年、サルディスを首都とするリュディア王国から攻撃を受けていました。当時のリュディア王だったアリュアッテスは毎年秋にミーレートスに侵攻し、兵士たちにミーレートスの耕地を荒して、その収穫を台無しにしていました。ところが、12年目の侵攻のあとアリュアッテスは病気にかかり、それが長びきました。それをいずれかの神による神意と考えたアリュアッテスは、ギリシア人にとっての聖地であり、またアポローン神の神託を聞くことが出来るというデルポイに使者を送って神意を尋ねました。しかし、デルポイの巫女は「ミーレートス領のアッセソスでリュディア人が焼いた女神アテーナーの神殿をリュディア人が再建するまでは、アポローン神に神託を乞うてはやらない」と言ったのでした。実は12年目のミーレートス侵攻の際、穀物についた火が風にあおられ、「アッセソスのアテーナー」と呼ばれるアテーナーの神殿に燃え移り、神殿が焼け落ちていたのでした。その当時はリュディア人の誰も気にとめていなかったのですが、これが神の怒りに触れて、アリュアッテスの病気の原因になっていたのでした。この巫女の言葉をどういう経緯があったのか、ペリアンドロスが聞き知ることになりました。そこでペリアンドロスはこの巫女の言葉をトラシュブーロスに使者を送って伝えました。それは、予め知っておればアリュアッテスに対して優位に交渉が出来よう、という考えからでした。トラシュブーロスはこの報せを活用しました。やがて神殿再建のために一時休戦を乞うリュディアからの使者がミーレートスにやってきましたが、トラシュブーロスは予め集めておいた町にある限りの食料を使って市民に戸外で飲み食いさせたのでした。これはリュディアの使者たちにミーレートスが全然食料不足に陥っていないことを見せつけるためでした。これを見たリュディアの使者たちはサルディスに帰ってからアリュアッテスに、ミーレートスがまったく食料不足になっていないこと、むしろ食料が有り余っている様子であることを伝えました。この報告を聞いてアリュアッテスは、耕地を毎年荒してもミーレートスは屈服しないと考え、ミーレートスと同盟を結ぶことに方針を変えたのでした、こうしてミーレートスはリュディアと有利な同盟を結ぶことが出来たのでした。


以上が、ペリアンドロスがトラシュブーロスを助けた話でした。次に紹介するのは、ペリアンドロスとその息子リュコプローンの確執の話です。

ペリアンドロスはキュプセロスの子でコリントス人であり、ヘラクレスの子孫の家系に属していた。彼はリュシデを妻としたが、彼自身はその妻をメリッサと呼んでいた。彼女の父はエピダウロスの僭主プロクレスであり、(中略)この妻からペリアンドロスは二人の息子、キュプセロスとリュコプロンをえた。下の子(リュコプロン)は利発であったが、上の子(キュプセロス)は愚鈍だった。


ディオゲネース・ラーエルティオス「ギリシア哲学者列伝」の第1巻 第7章「ペリアンドロス」より


ペリアンドロスにはメリッサという妻がおり、2人の間には2人の息子がいたということです。ところが、ペリアンドロスはこの妻を殺してしまいました。

やがて時が経って、彼は側妻たちの中傷を信じて怒りにかられ、妊娠中の妻に踏み台を投げかけて、あるいは足で蹴って、これを殺してしまった。ただし、この側妻たちを彼は焼き殺してしまったのであるが。


同上

メリッサの死の原因を、ペリアンドロスは息子たちや舅のプロクレースには隠していたようです。ところがプロクレースは、どこからか娘の死の真相を聞いて知っていたのでした。

 ペリアンドロスにはメリッサの生んだ二人の男児があり、一人は十七歳、もう一人は十八歳であった。ある時この二児を彼らには母方の祖父に当る、当時エピダウロスの独裁者であったプロクレスが自分の許へ呼びよせ、娘の生んだ子供であれば当然のことならが、厚くもてなした。二人を国へ帰す時になって、プロクレスは彼らを見送りに出て、その折いうには、
「お前たちの母親を殺したのは誰か、お前たちは知っているのかね。」
祖父のこの言葉を、兄の方は一向気にかけなかったが、リュコプロンという名の年下の子供はこれを聞いて傷心のあまりコリントスへ帰ってからは、母親殺しの下手人であるというので父親に物を言わず、父親が話しかけても受け答えもせず、また訳を訊ねられてもそれに答えようともしなかった。そこでとうとうペリアンドロスは癇癪(かんしゃく)を起し、彼を家から追い出してしまったのである。


ヘロドトス著 歴史 巻3、50 から

さて、リュコプローンはこれからどうなるでしょうか? 次回に続きます。