メガラ人たちは神々に祈るだけではなく、ペルシア軍に実際に立ち向かいもしました。ペルシアに対して抗戦する意志を示した他のギリシア諸都市とともに、テッサリア(ギリシア北部地方)に軍船20隻を派遣したのです。しかし、この遠征軍は戦略上の観点から撤退し、エウボイア島の北端の地アルテミシオンに再集結しました。ここでのペルシア側との海戦はアルテミシオンの海戦と呼ばれ互角の戦いだったのですが、ペルシアの陸上部隊がテルモピュライの隘路を突破して南下したため、ギリシアの海上部隊はアテーナイ沖の島サラミースまで撤退したのでした。この時アテーナイ市民はサラミース島やその他の地方に避難し、男たちは軍船に乗りました。そしてほぼ無人となったアテーナイの町はペルシア軍によって蹂躙されました。しかし、ペルシア軍がそれより西に進もうとするより前にサラミースの海戦でギリシア側が勝利したために、怖気づいたペルシア王クセルクセースはそこから急いで逃げ帰ることになりました。こうしてメガラはペルシア軍に侵攻されることを免れました。
しかしこれで危機が去ったわけではありませんでした。ペルシアの高官であったマルドニオスはクセルクセース王から許しをもらって、30万の兵を分けてもらい、そのままギリシア北部のテッサリア地方に留まったのでした。そして翌年の春、マルドニオスの軍勢はアテーナイを目指して南下を開始しました。アテーナイは、スパルタを中心とするペロポネーソス半島の諸都市から援軍が来るのを待っていましたが、援軍は一向に到着しません。そのためアテーナイ人たちは再び町を棄てて、サラミース島に移動したのでした。スパルタが援軍を出さなかったのは、ヘーロドトスによるとスパルタが祭礼中であり、スパルタ人は神事をなによりも尊重する国民であったからだといいます。さて、マルドニオスの軍がアテーナイに到着すると、そこはもぬけの殻でした。
事態がここまで進行したのを受けて、メガラはアテーナイ、プラタイアの使節とともにスパルタに向い、スパルタの出兵を要請しました。そこで使者たちとスパルタ人たちの間にごたごたがありましたが、最終的にはスパルタは援軍を送り出しました。援軍を率いたのはパウサニアースで、テルモピュライでペルシア軍に対抗して戦死したスパルタ王レオーニダスの甥にあたる人物でした。スパルタの軍隊が進発したことを察知した隣国のアルゴスは、親ペルシアだったので、アテーナイにいるマルドニオスに使者を送って、スパルタ軍の来襲を告げました。
これを聞いたマルドニオスには、もはやアッティカに留まる気持ちはなかった。彼はこの情報に接するまでは、アテナイがどのような行動に出るか、その意図を知ろうとして静観しており、その間ずっとアテナイが和平に応ずることを期待し、アッティカの国土を荒し危害を加えることを差し控えていた。(中略)マルドニオスが兵を引き上げた理由は、アッティカの地が騎馬戦に適さぬためと、万一戦いに敗れた場合に退却するには、僅かな兵力でも彼らの退路を遮断できるような隘路による外はなかったからである。そこで彼はテバイまで戻り、自国に友好的な町の附近で、しかも騎馬戦に適した土地において戦いを交えようと企んだのである。
ヘロドトス著「歴史」巻9、13 から
しかしマルドニオスはその後気が変って、軍を反転し、メガラ地方に侵攻しました。
マルドニオスが撤退をはじめ、すでにその途上にあるとき、新たに敵の先陣、スパルタ兵一千がメガラに到着したことを告げる報知が彼の許に届いた。彼はこれを聞いて、なんとかこの部隊を先ず撃滅できぬものかと策をめぐらしていたが、遂に軍を反転させてメガラに向った。騎兵部隊が先頭に立って、メガラ地区を蹂躙して廻ったが、この地方がヨーロッパの西に向かっては、このペルシア遠征軍の到達した最も遠隔の地点に当る。
ヘロドトス著「歴史」巻9、14 から
この時、女神アルテミスによる以下のような奇跡が起きたとAD 2世紀の地理学者パウサニアース(上に登場したスパルタの王族のパウサニアースとは別人)は述べています。
メガラ地方を侵略したマルドニオス軍の分遣隊は、テーベのマルドニオスの許に戻ることを望んでいましたが、彼らが行進したときにアルテミスの意志によって夜が彼らにやって来て、彼らは道に迷い丘陵地帯にやって来た、という話があります。彼らがいくつかの矢を放ち、近くに敵意を持った勢力がいたかどうかを調べようとしました。近くの岩は射られるとうめき声を上げ、彼らは再びもっと熱心に矢を放ちました。
彼らは敵を撃っていると思いながら、ついに矢を使い果たしました。夜が明けたとき、メガラ人は攻撃し、もはや矢の残りもなく鎧も付けていない人々を相手として戦う、鎧を付けた人々であったため、彼らはより多くの敵を殺しました。
のちにメガラ人たちはアルテミスの神助に感謝するために、「救い主アルテミス」のプロンズ像を、例のテアゲネースの噴水の近くに建立したということです。
(右:女神アルテミス)