メガラは、アテーナイの西、コリントスの東にあります。アテーナイの西には大地の女神たちデーメーテールとペルセポネーの秘儀で有名なエレウシスがありますが、歴史の確かな時代にはエレウシスはすでにアテーナイに併合されていました。そのエレウシスの西がメガラ領です。メガラはアテーナイとコリントスという２つの有力な都市に挟まれて、その強い影響を受け続けたようです。
旧約聖書におけるアダムとイブのような人類の始祖にあたる人物は、ギリシア神話においてはデウカリオーンとピュラーですが、ギリシア神話では彼らの系統とは別の系統も多くあり、それぞれがその始祖を持っています。そんな始祖のひとりにポローネウスという人物がおり、その子供であるカールという人物がメガラの初代の王だということです。
現在でもポローネウスの息子カールからカーリアと呼ばれている城塞を登ると（中略）。カールが王だったときに建てられたという、いわゆるデーメーテールの小部屋もここにあります。
このパウサニアースの記事によれば、カールはメガラに城塞を建て、またデーメーテールの小部屋という聖域を建てたということです。パウサニアースは別の箇所（1.39.5）で、この小部屋（メガラ）の名から都市の名前がついたと説明しています。このカールという名前はギリシア人の名前らしくなく、珍しい名前です。ヘーロドトスはその「歴史」の中でカールについて書いていますが、そこにはメガラとの関係は書かれていません。ヘーロドトスの伝えるカールはカーリア人という小アジア在住の民族の始祖となっています。
カリア人についてクレタ人の伝えるところは右のようであるが、カリア人自身はこの説には不賛成で、自分たちは土着の大陸人であり、昔からずっと今の名称を用いてきているのだと信じている。彼らがその証拠として挙げるのは、ミュラサにある「カリアのゼウス」の古い神殿で、この神殿にはミュシア人もリュディア人も、ともにカリア人と兄弟関係の民族というので参与を許されている。彼らの伝承によればリュドスとミュソスはカルの兄弟だというのだからである。そこでこの二民族には参与が許されているが、それ以外の民族に属するものは、たとえカリア人と同じ言語を話すものでも、参与が許されない。
この記事によると、カーリア人の伝承によれば、リュディア人の祖リュドスとミュシア人の祖ミュソスとカーリア人の祖カールが兄弟だったということです。つまり、リュディア人、ミュシア人、カーリア人は互いに遠い親戚に当るというのです。なお、リュディア人もミュシア人も小アジア在住の民族です。そしてリュディア人とミュシア人はカーリア人の同族であるという理由で、カーリア人の「ミュラサにある『カリアのゼウス』の古い神殿」を参拝することが許されているのだと言います。このミュラサの位置を下に示します。
このような場所に関係するカールと、メガラの初代の王だというカールは関係があるのでしょうか？ メガラの創建にはカーリア人が関係していたのでしょうか？ 非常に昔のことなので、はっきりしたことが分かりません。
カールのあとの王たちについては12世代ののちまで何も伝えられていません。カールから数えて12世代ののちに、エジプトからレレクスがやってきてメガラの王になったとパウサニアースは伝えています。
ポローネウスの子カールの12世代のちに、レレクスがエジプトから到着して王になり、彼の治世にレレゲス族がその名前を得たとメガラ人は言います。
レレクスは海の髪ポセイドーンと、アフリカの地名リビアの名前の元になった女性リビュエーとの子でした。またレレゲス族については英語版Wikipediaによると以下のように正体不明な民族です。
レレゲス人は、ギリシア人到着以前の、エーゲ海地方の先住民でした。彼らは、この地域の別のギリシア以前の人々であるペラスゴイ人とは異なっていました。彼らが発祥した正確な地域は不確かです。なぜなら、彼らは明らかに読み書きができておらず、彼らへの唯一の言及は古代ギリシアの情報源にあるからです。これらの参照は無頓着であり、（主張されているように）架空のものである場合があります。レレゲスの言語についても同様に、ほとんど知られていません。
多くのギリシア人作家は、レレゲス人をアナトリア南西部のカーリア人と結びつけています。ホメーロスは、カーリア人、ペラスゴイ人、パイオニア人、ガウコネース人と並んで、トロイアの同盟国の中でレレゲス人の名を挙げています。
ここでレレゲス人がカーリア人と関係ありそうだという記述が気になります。
