神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

ポーカイア(11):パルメニデース(3)

前回、自分の理解の届く範囲内で何とかパルメニデースの思想を紹介したつもりでしたが、その後Wikipediaを読んでいて、プラトーンの「テアイテトス」の中でソークラテースがこんなことを言っていたのを知り、少し後悔しました。


その本の中では、ソークラテースが少年テアイテートスに「知識とは何か」と問いかけ、ソークラテースは得意の問答を進めていきます。その中でソークラテースはパルメニデースの学説をもち出してきたりするのですが、その説の妥当性を検討しようと提案するテアイテートスに対して、ソークラテースは以下のように答えたそうです。

  • パルメニデスには畏敬・畏怖の念を抱いており、若い頃に彼に会って親しくさせてもらったことがあるが、何か底知れないものを持っているように見えたし、我々が彼の言葉を理解しなかったり、理解の及ばぬことが多々あるのではないかと恐れる。
  • したがって、彼ら(=パルメニデースとその弟子のメリッソス)の考えに関する言論は、「片手間」でできるようなものではないし、本格的に取り組むとなると計り知れないほど「大きな言論」となってしまい、本来の主旨である「知識について」が見失われてしまうことを恐れる。

がゆえに、ここではテアイテトスの要望には応じられない


日本語版のウィキペディアの「テアイテトス」の項より

(ここのところを、図書館から「テアイテトス」を借りて原文(と言っても和訳ですが)を確かめようと思ったのですが、コロナの影響でしばらく臨時休館になってしまったので借りられずにいます。)


これを読んで、前回の私がパルメニデースの学説を紹介しようとしたことに対して、ソークラテースから、やさしくたしなめられているような気がしました。ここでのソークラテースの発言はもちろんプラトーンの創作と考えられますので、この発言はプラトーン自身がパルメニデースを尊敬していることを示しているのでしょう。素人の私がああだこうだと言うことではなかったようです。


ポーカイアの話を終えた後に、ポーカイアの植民市で育ったパルメニデースの話は取り上げておくべきと思い、私はそれを書いてきました。そのパルメニデースの話も終わったので、ここでポーカイアの話を終わりたいと思います。パルメニデースについては、非力な私がまとめるのではなく、パルメニデース自身の残したものを紹介したほうがよかったようです。そこで、残りはパルメニデースの詩の一部を紹介して終わることにします。

語られるべき道として なおのこされているのはただひとつ――
すなわち [あるものは]あるということ。この道には 非常に多くのしるしがある。
すなわちいわく あるものは不生にして不滅であること。
なぜならば、それは完全にして揺がず また終りなきものであるから。
またそれはあったことなく あるだろうこともない。今あるのである――一挙にすべて、
一つのもの、つながり合うものとして。それのいかなる生まれを 汝は求めるのか?
どこからどのように生長したというのか? あらぬものから、と言うことも
考えることも 私は汝に許さぬであろう。なぜならあらぬということは
語ることも考えることもできぬゆえ。またそもそも何の必要がそれをかり立てて
以前よりもむしろより後に 無から出て生じるように促したのか?
かくしてそれは 全くあるか 全くあらぬかのどちらかでなければならぬ。
それにまた あるもののほかに何かが 無から生じて来るなどとは
確証の力がけっしてこれを許さぬであろう。このゆえに司直の女神ディケは
足械(あしかせ)をゆるめてそれが生じたり滅んだりするのを放任することなく、
しっかと保持する。そしてこれらについての判定は 一にかかってこのことにある、
すなわち、あるか あらぬか――。しかるに判定は 必然のこととしてこう下された、
すなわち、一方の道は考ええず言い表しえないものとして放棄し(真実の道ではないから)、
他方の道は実在のもの 真実のものとしてこれを選ぶべしと――。
そもそもどうしてあるものが 後になって滅びえようか。どうして生じえようか?
もし生じたとしたならば、またあろうとするのであったとしても、常にあるのではない。
かくて「生成」は消し去られ、「消滅」はその声が聞けないことになった。



筑摩書房世界文学大系4 ギリシア思想家集」の「パルメニデス」 藤沢令夫訳より

思惟することと、思惟がそのためにあるところのものとは同じである。
なぜならば、思惟がそこにおいて表現を得るところの あるものがなければ、
汝は思惟することを見出さないであろうから。
まことにあるもののほかには何ものも
現にありもせずこれからあることもないだろう。


同上



(右:エレアの遺跡。ローサの門)