神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

ミュティレーネー(9):オルペウスの竪琴

サッポーまで話を進めたのに、歴史時代からまた神話伝説の時代に戻ってしまうのですが、ここでオルペウスとレスボス島にまつわる伝説を紹介したいと思います。なぜレスボス島には芸術家が輩出するのか、といういわれを説く話です。ミュティレーネーにはサッポーだけでなくアルカイオスという詩人が出ています。また、範囲をレスボス島に拡げると、ミュティレーネーのライバル都市であったメーテュムナからは竪琴の奏者アリオーンが、アンティッサからは詩人にして竪琴奏者のテルパンドロスが出ています。


アルゴー号の乗組員のひとりでもあったオルペウスは竪琴の名人であり、彼が竪琴を弾くと、森の動物たちばかりでなく木々や岩も感動したそうです。アルゴー号に乗っているときには、歌の力で暴風を鎮めたり、セイレーンが魅惑的な歌で人々を誘って船を難破させようとした時には、正しい楽の音によってそれに打ち克つなどの活躍をしています。
そのオルペウスが、亡くなった妻エウリュディケーを取り戻すために生きたまま冥府に入った話は有名です。冥府の王は、「冥界から抜け出すまでの間、決して後ろを振り返ってはならない」という条件をつけて、彼の妻エウリュディケーを地上に連れ戻すのを許したのでしたが、冥界からあと少しで抜け出すというところで、オルペウスは妻が本当に後ろに付いていてくれるのか不安に思って後ろを振り向いたがために、とうとう妻を連れ戻すことが出来なかったのでした。

妻を失ったオルペウスはエウリュディケー以外の女性に見向きもしなくなったために、トラーキアの女性たちに恨まれ、ついには殺害されたとも言います。あるいは彼は冥界から出てきたあとオルペウス教を創始し、冥界の秘密を信者に明かしたのですが、信者を男性に限ったために、女性たちに殺されたとも言います。オルペウスは八つ裂きにされ、トラーキアの女性たちによってエブロス川に投げ込まれました。
やがてオルペウスの頭部と竪琴は、海を渡ってレスボス島のアンティッサまで流れ着きました。島の人々はオルペウスの死を深く悼み、墓を築いて彼を葬りました。以来、レスボス島はオルペウスの加護によって多くの芸術家を輩出することとなったということです。また、彼の竪琴はその死を偲んだアポローンによって天に挙げられ、琴座となったとも言われます。
(上は、ギュスターヴ・モローの「オルフェウス」の一部)