神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

イアーリュソス(6):ドーリス6都市同盟

それではイアーリュソスに住みついたドーリス人はどこから来たのでしょうか? アメリカのWikipediaの「ロドス島」の項を見ても、それについての情報はありませんでした。私は、ペロポネーソス半島のアルゴスが、ロドス島のドーリス人の故郷ではないかと推定します。

その根拠の一つは、伝説上でロドス島を支配していたというトレーポレモスの故郷がアルゴスである、ということです。もう一つは、ダナオスとその娘たちがエジプトから遁れて来てロドス島に立ち寄った、という伝説がありますが、その伝説によればこのダナオスはその後アルゴスの王になる、ということです。これらの伝説がアルゴスとの関係を示唆していることから、私はアルゴスがイアーリュソスを始めとするロドス島の3都市の母市ではないかと推定しています。(その後、トゥーキュディデースの「戦史」巻7・57に「ロドス兵は本来アルゴスからの植民の末でありながら」という文章を見つけました。)


やがて、イアーリュソスは近隣のドーリス系都市と同盟を結びました。これがヘクサポリス(6都市)という同盟で、その加盟都市は、まずロドス島の3都市、イアーリュソス、リンドス、カメイロスであり、そのほかコース島のコースと、あとは大陸側の2都市、ハリカルナッソスクニドスです。

(上:ドーリスの6都市同盟の都市)


コース島エピダウロスからの植民による都市であり、ハリカルナッソストロイゼーンアルゴスからの、クニドスはスパルタからの植民による都市で、全てドーリス系の都市でした。これらの都市はトリオピオンというクニドスの近くのアポローン神殿を崇拝し、この神殿のために競技を奉納し、他の都市をこの聖域に入れないようにしました。のちにハリカルナッソスがこの同盟から除名された話は「ハリカルナッソス(4):リュディアとペルシアへの服属」でご紹介しました。




(左:アブ・シンベル大神殿



BC6世紀の初めには、イアーリュソスの人間がエジプトの傭兵として、アブ・シンベルまで行ったことが、当時の碑文から分かっています。アブ・シンベルというのは有名なアブ・シンベル神殿のあるところで、エジプトでも南の方になります。こんな遠くにまで当時のギリシア人が来ていたのにはびっくりします。碑文には「イアーリュソス人テーレポス」「イアーリュソス人アナクサデル」の名前が刻まれているそうです。(周藤芳幸著「物語 古代ギリシア人の歴史」によりました。)