神話と歴史の間のエーゲ海

古代ギリシアの、神話から歴史に移るあたりの話を書きました。

イアーリュソス(1):はじめに


ロドス島はエーゲ海の東側の南に浮ぶ島です。面積でいうと日本の沖縄本島に近い大きさですが、沖縄本島よりずんぐりとした形です。古代ここにはイアーリュソス、カメイロス、リンドスの3つの都市がありました。どれもドーリス系の都市です。

これら3つの都市についてはすでにホメーロスも「イーリアス」で歌っています。

 またトレーポレモスはヘーラクレースの子で、性(さが)勇ましく丈高く、
ロドス島より九艘の船を率いて来た、この気象のすぐれたロドス人らは
三つの部族にわかたれて、ロドスの島一帯にならび住まうもの、
リンドスとイアーリュソスと、白亜に富めるカメイロスと(の三邑)に。


ホメーロスイーリアス」第2書 呉茂一訳 より

今回は、その中でイアーリュソスを取り上げます。


さっそくですみませんが、この都市の名前について、細かい言い訳を書かせて下さい。私はこの都市の名前をイアーリュソスと書くのがよいのかイアリューソスと書くのがよいのか、判断がつきませんでした。呉茂一氏は上の引用にあるように「イアーリュソス」としていますが、高津春繁氏の「ギリシアローマ神話辞典」では「イアリューソス」となっています。また、久保正彰氏訳のトゥーキュディデース「戦史」では「イエーリュソス」で、河野与一氏訳の「プルターク英雄伝(二)テミストクレース」では「イアリューソス」となっています。それで判断がつかなったのです。私は、根拠は特にないのですがイアーリュソスで統一することにします。

古代のイアーリュソスの遺跡は、小高い山の上にありました。その山から海岸側の平地には現代のイアリュソスの町が広がっています。神話の世界ではこの町の創建者は町と同じ名前のイアーリュソスという人物で、太陽神ヘーリオスの孫にあたり、兄弟にはリンドス、カメイロスがいて、それぞれリンドス市、カメイロス市の創建者となったということです。太陽神ヘーリオス古代ギリシアではあまり人気のない神なのですが、例外的にロドス島では主神として崇められていました。イアーリュソスのあるロドス島は太陽神ヘーリオスの島だったのでした。そしてイアーリュソスは一説によるとヘーリオスの子供たちが最初に住んでいた場所だということです。